1.不良解析の着目点

1.    不良解析の着目点

1. 1 観察と疑問

不良解析と言う仕事はいかに些細なことであっても、そこで起こる現象に常に目を向け、その現象の何が原因しているかを知ることが大切です。まず、「ありのままの状態を観察すること」がその第一歩になります。例えば、新しい割れか古い割れかは、割れと言う隙間の中に、アッセンブリ上に堆積したゴミが存在しているかどうかで判断ができます。不具合基板を本体から外す時に、誤って割れを起こした場合は、本人は分かっていても、第三者が見た場合は、誤って割ったのかは分からなくなります。誤って割ってしまった場合、割れの中に基板表面に堆積しているゴミは入っていません。

よって、「新しい割れ」の判断の1つとなります。

このようにゴミと言えども判断基準となります。したがって、観察前にゴミを吹き飛ばしてしまえば、判断ができなくなることもあります。ありのままを観察することは不良解析のスタート時の基本となるわけです。

観察しながら

「なぜ、ここにあるのだろう」

「なぜ、ないのだろう」

「なぜ、色が違うのだろう」

「なぜ、隙間があるのだろう」

と、単純なことでも、疑問を抱くことです。

不良解析では、常に「観察と疑問の繰り返し」がベースとなります。「単純でありふれた存在]、あるいは「あまりにも単純な現象」は見逃しやすいだけに、観察者が気付くのが実は大変難しいのですが、それを見破ることができるか否かが、解析担当者の実力となります。

はんだ付け部で起きる現象は、高校レベルの物理や化学の知識で十分です。数式や化学式ではなく、むしろ「現象」もしくは「変化」を理解しておくことの方が役に立ちます。

「液体は温度が高くなると、粘性は小さくなる」………(A)

「大きな物は、温度が上がりにくい」……………………(B)

というような単純な現象から、(A)は「粘性の小さい方に液体は流れる」、(B)は「大小の部品を加熱すれば、温度上昇に時間差が生じる」、と言う考えに展開することができます。

これが発想の転化ですが、解析の担当者は日頃の発想の転化の訓練は大切になります。それにより「現象を探す目」が養われてきます。例えばチップ電極に汚れがあっただけで、色々な不具合の発生を想定することができるようになり、不良解析が正確に効率よく行えるようになります。

ここで「なぜ、ないのだろう」と言う単純な疑問がどのように展開していくかを説明しますと、「あるべき所にない」と気付けば、「もともとなかった」か、「あったがなくなってしまった]かのいずれかになります。「あった物がなくなる」ことは移動の行為があったことになります。重さのある物が移動するのですから、何らかの力が作用したことになります。

力には「引く力」、「押す力」、「膨張する力」、「収縮する力」などがあります。それでは力はどのような状態から発生するかとなると、衝撃、振動、音、熱、気流、蒸発(ガス化)、表面張力(蓮の葉の上の水滴)、人の動作(早い動き、遅い動き、震え)などがあるわけです。不具合を起こした時に、「なぜ、ないのだろう」と言う単純な疑問により、力の発生源が音なのか、熱なのか、それが膨張する力に変ったのか、あるいは引張る力に変ったのか、を推理することができます。

つぎに、普通では音が割れにつながるとは考えにくいのですが、「なぜ?」と言う疑問がまた起きます。観察すると「どうも、正常品と比較して、不具合品の板は薄いようだ」。音は振動ですから、板が薄ければ音に共振して、局部に力が集中することになります。すなわち、板が薄かったことにより、「共振]という現象で力が加速したことになります。本来、割れるはずがなくても、加速する因子があると、その現象が強調されます。これが加速因子であって、加速因子は目の前に存在していながら、時として、あまりにも単純でありふれた存在が故に、観察者が気付かないことがあります。

加速因子としては、色、厚み、大きさ、材質の違い、時間差、異物の付着などがあり、これらに疑問を抱くには、何度も現物で検証する地道さが要求されます。このように「初期の観察と疑問はまさに基本中の基本」であって、これを怠って現物を切断したり、樹脂に埋め込んだりすると、正しい現象を把握することはできず、不良解析は失敗に終わります。

現象をとらえることについて説明すると、やに入りはんだによるはんだ付け作業で、少々大きな液体のはんだボールが基板上を移動したとすれば、カタツムリが歩いた跡と同じ現象になります。すなわち、液体のはんだボールの表面には溶融フラックスが存在しているからです。溶融はんだボールが僅かに動いたところには、基板面にフラックスが転着したのが観察できます。

写真1(a)にはんだボールを,写真1(b)は照明を変えてフラックスを強調して撮影したものです。すべてこのように顕著に観察できるとは限りませんが、フラックスの痕跡によりどのはんだ付け部の作業で飛来したかが分かります。

不良解析の担当者はこのように日頃の「観察と疑問」の繰り返しの中で、やがて鋭い観察の目が養われます。

外観観察では不良の原因が分かるレベルのところまで解析します。次に、必要に応じて断面観察を行い、成分分析で裏付けをとり、最終的に再現試験を実施して完結をみます。ただし、明白な事実が確認でき、不良の原因が確定できるならば、その時点で不良解析は終了し、ラインを立ち上げます。

 

1.    2 外観観察の仕方

 

モノ作りはいろいろな過程を経て製品になります。解析は目の前にある不具合品から、過去の生産過程に踏み入って推理を開始する訳ですから、現物をいかに正しく観察するかが重要となります。もちろん、正常品の観察、過去の記録、使用環境などの情報も重要であることは言うまでもありません。

基板上に不具合が発生した場合、まずその状態を観察すると、往々にして、正常なはんだ付け部の確認を忘れてしまうことがあります。正常なはんだ付け部を観察することにより、使用された基板の良否、部品の良否、はんだの良否、フラックスの良否などが分かります。これらの良否を総合することにより、設計のレベル、生産時の設備、工程などの管理、現場作業者のはんだ付けに対する認識のレベルなどを読みとることができます。

このような手続きを経ることにより、初めて「不具合部に限定した異常」として正しく把握することができます。このような手続きを踏まず、不具合部だけを追求すると、状態を正しく認識できなくなります。

そのために不良解析は不具合品全体の観察から始めなければなりません。

1.2.1 不具合品の全体を観察

まず、観察する場合は帯電防止用の手袋を必ず着用します。

 

(1)静的観察(写真撮影)と動的観察(ビデオ撮影)

撮影用の光源が重要となります。観察物の色彩を正しく表現する光源は太陽光が理想で、次に室内では写真撮影用のデイライトランプの300~500ワットの照明器具が必要となります。

静的観察は主に市場発生の不良解析として肉眼及び写真撮影(フィルムの場合はIS0400が適している)、動的観察は主に生産現場のはんだ付け不良の解析として、肉眼観察より正確になります。静的観察は状態の違いを知る手段として有効であり、動的観察は時間にともなう現象を見つけるのに有効となります。これらの観察を行うことにより状態把握の精度が高まるだけでなく、観察の見逃しを防止することができます。

(2)写真撮影の方法

写真撮影は必ずカメラを三脚にセットします。これは手ぶれを防止してピントを正確に出すためで

す。レンズは50mmのマクロレンズを使用します。必要に応じ、中間リングあるいはベローズをセットして接写撮影をします。撮影のポイントは、光のコントラストが出来上がった写真の良否を決めるということです。写真2(a)は直接撮影の状態で、2(b)はこの方法で撮影したものですが、QFPのリードが黒くつぶれて見えなくなっています。写真3(a)は間接照明で撮影している状態です。全体をトレーシングペーパーで覆い、QFPの手前に白色の反射板(この場合は発砲スチロール)を置いて撮影しています。3(b)に出来上がった写真を示しますが、QFPのリ-ドがはっきりと写っているのがよく分かります。デイライトランプを使用した場合は、間接照明なしでも明瞭に写ります。

間接光の撮影状態を写真4(a)に,仕上がった写真を4(b)に示します。

積み木ブロックを使用しますと、アッセンブリを汚すことなくいろいろな角度で撮影できます。写真5にアッセンブリをセットした状態を示します。この方法は実体顕微鏡で撮影する時も有効です。

 

(3)正常品との比較観察

アッセンブリを直接目視で観察し、さらに写真5アッセンブリの固定真撮影、ビデオ撮影を行って正常品と不具合品、さらに部品、基板の使用品と未使用品との比較をします。この時アッセンブリは6方向から観察し、不具合を部を合む広い領域、不具合部、不具合部の細部の順に顕微鏡観察を行います。特に、不具合部は角度を変え、照明を変化させて観察し写真撮影を行います。

基板を例にすると正常品の観察ポイントは、以下のようになります。

*全体的に色の変化、位置関係、搭載部品の状態。

*形の変化(基板の反り、部品の変形、リードの曲がりなど)

*異物の存在(ゴミ、汚れ、液体の付着した痕跡)

*表面の凹凸、きず、その他の状態の変化。

*はんだ付け部の状態

 

(4)不具合品の観察ポイント

正常品の観察を徹底して行うと、不具食品を観察した時に違いが分かりやすくなります。それは良く勉強して試験問題に取り組んだときと、勉強をしないで取り組んだときの違いがあります。正常品同様に全体の調査から始め、要領は同じです。ここの調査で不具合品製造当時に踏み入って検証することになります。使用されている基板、部品、フィレットの状態を緻密に調査して、使用した設備の管理及び技術のレベルがどうなっていたか、併せて不具合品の取扱いが適切であったかどうかを検証します。

1.2.2 顕微鏡による細部の状態観察

拡大観察をした時に、シャープな解像と現物の色彩を正しく表現してくれる装置であればなんでも良いことになりますが、観察はレンズを透して行われるのでレンズの球面収差や色収差のある画像は適しません。

(1)実態顕微鏡観察

一般には実体顕微鏡が使用されています。実体顕微鏡は不具合品を任意の角度にセットすることができ、照明角度も任意に選べるのでより豊富な観察ができ、不具合部からの情報を引き出すことに役立ちます。実体顕微鏡の観察にも被写体に対し、直接光観察と間接光撮影を使い分けることで観察力がつきます。前出の写真1a)の直接光撮影、1b)の間接光撮影の結果では、間接光撮影はフラックス残渣の状態が鮮明に撮影されています。

 

写真6に実体顕微鏡の間接光撮影の状態を示します。 トレーシングペーパーで円錐形の筒を作り、上端をカットしたもので直接光をさえぎり照明します。この方法で10円硬貨を観察した結果を写真7に示します。(a)は10円硬貨を普通に観察した状態、(b)は斜めにセットして写真6の方法で観察したものです。10円硬貨の表面状態がはっきりと分かります。

同様にステンレス製のクリップを観察したものを写真8に示します。直接光では一般には表面状態が分かりにくい材質です。間接光で表面の状態が観察しやすくなり、さらに照明の角度を変えることで横キズが強調㈱されたり、縦の圧延時のキズが強調(b)されたりします。この応用として、フィレットの表面の結晶状態、あるいははんだ割れの観察に有効です。

アッセンブリの観察をする場合、現場の作業も多くなります。そのために携帯する小道具があります。生産現場及び実体顕微鏡の観察などに使用する小道具を写真9に示します。ルーペ、ピンセット(バネの柔らかなタイプ)、ピン(または針)、極細の筆(毛の長さを2mm位にカットしたもの)、爪楊枝、砂消しゴム、積み木ブロック、キムワイプ紙、ブローアー(むしろカメラ用)、スパチュラ、フイルムケース(サンプル収納)、帯電防止ビニール袋(サンプル収納)、クロム酸銀試験紙(塩素、臭素反応)、イソプロピルアルコール(IPA)、精製水、クシ型基板、トレーシングペーパー、綿棒、カッターナイフ、1円硬貨、歯科用ミラー、はさみなど。

金属顕微鏡は普通外観観察ではあまり使用しませんが、めっき表面の状態を観察するのに有効です。

ただし、実体顕微鏡で表面の凹凸、異物の付着などについて十分状態を把握していないと、例えば、異物の付着が腐食のように見えたりして、思わぬ判断ミスをすることになります。写真10(a)は実体顕微鏡で撮影した金めっきの一部分で、透明に近い異物が付着していますが、なかなか分かりにくい状態です。同じ箇所を金属顕微鏡で観察すると写真10(b)のように腐食と誤解されかねません。

(2)CCDカメラ

CCDカメラはアッセンブリを直接観察するのではなく、モニターの画面に映し出して観察します。

画面が広くしかも複数の人が同時に観察できる点は不良解析の上で優れています。モニター画面の色彩は良いのですが、プリントアウトした写真の色彩は十分とは言えません。報告書に添付する場合、現物と色が異なる写真では報告書に説明文を付記して補足しなければなりません。

高倍率での解像力は金属顕微鏡を上回り、モニター画面上で2000倍以上の機種もあります。高倍率側になるほど、実物の色の再現は悪くなります。 CCDカメラは面積計算、長さ測定、厚み測定、記号および文字の写真書き込みなどの機能のついたものも市販されてきています。

今後CCDカメラはさらに進化し、不良解析のスピードアップが可能となるでしょう。

 

1.3 断面観察の仕方

断面観察は実体顕微鏡で全体像と色彩を観察し、次に金属顕微鏡、電子顕微鏡の順序で微小節の観察をすることが鉄則です。必要に応じEPMAで成分分析します。

1.3.1 断面観察用試料の作成

断面観察ではどの角度から切断するかが最も重要になります。そのためにも、徹底した外観観察で内部の状況を推定し、切断の位置、角度を決めます。必要に応じX線解析を行って確認します。次に、切断の際に熱をかけることなく、また、応力を与えることなく完了するのが理想的になります。それには最も適した切断機を選択することがポイントになります。金のこで切るのは危険です。

コネクターのソケット部の切断のような場合、切断機は切り粉がソケット内の空洞部に侵入すると除去できないので細心の注意が要求されます。また、試料の研磨では、例えば、ヨリ線のように研磨中に線が脱落して、研磨面に突き剌さる恐れがある場合は、手作業で研磨しなければなりません。

どのように優れた研磨機があっても、日頃、手作業の研磨の腕を磨いておくことは大切です。

次に手作業による試料の断面観察試料の作成手順を説明します。

①(以降チップについて)切断の際の応力が掛からないように、切断の位置は慎重に選ぶ。

②チップの周辺をファインカッターで切断し、アッセンブリから切り出す。

③切り出した全体を樹脂でモールドする。

④樹脂が凝固したのを確認して、チップ部品の断面観察近辺を樹脂とともに再度ファインカッターで切断する。切断位置ははんだ付け部の直前で止める(研磨することによりにフィレットが出る位置の切断がよい)。この直前で止めることは切断の最も重要な点になります。

⑤ガラス板の上にエミリーペーパをセットし、水を流しながら一方向から研磨する。一般には手前から向こうに押すようにし、試斜面の全面が平均してペーパーに当たるように研磨する。(往復研磨はしない)研磨後は研磨材を流水で完全に洗い流す(残ったまま次に移ると、粗い研磨材がそのまま持ち運ばれ、新たに傷ができます)。

⑥次に、研磨材の細かいペーパに水を掛け、付着している研磨材などの破片を洗い流してから、前回と直角の方向で、前回の研磨傷が消えるまで研磨する(この作業を怠ると、観察面のきずが取れなくなります)。

⑦このようにして、エミリーペーパーの#350、#500、#600、#800、#1000、#1200、#1500まで仕上げる。

⑧この後琢磨機でアルミナ研磨材などで研磨する場合、試斜面は軽く触れる程度で、時間をかけて研磨する。(慎重に作業しないと、はんだは柔らかい金属なので表面のはんだが流れ、綺麗な組織を見ることができなくなります)この作業のミスは多い。

⑧市販されているアルミナ研磨材の#100を指の腹につけて研磨し、はんだ表面が流れるのを防止する(この方法は充分練習してから実施して下さい)。

⑤試料を超音波洗浄して研磨材を除去する。金属顕微鏡で観察し、不十分な場合は再度研磨する。必ず超音波で洗浄しなければなりません

⑩このようにして、アルミナ研磨材で#250、#350まで行う。

⑨必要に応じ中性洗剤で洗浄する(水切りが良くなります)。

⑩洗浄後水分をキムワイプ紙を軽く当てて、水分を吸い取ってからブロワーで乾燥させる。

乾燥後、顕微鏡写真を撮ります。割れの原因が十分観察できたのであれば、細部の観察はこれで完了します。不十分であれば、さらに、試料を前記⑦から削り出して、割れの状態を観察します。

はんだ付け部の断面観察のための切断装置及び琢磨装置が市販されていますが、すぐ機械に頼るのではなく、経験が少ない場合は、メーカーの技術者と連絡を取りながら切断及び研磨の作業に当たることをお勤めします。また、日頃から、手作業の研磨の腕を磨いておくことは大切です。

1.3.2 断面観察のポイント

不具合の原因調査は、倍率が低いほど全体を評価することができます。倍率が高くなると、一部しか視野に入ってこないので全体が見えなくなります。したがって、電子顕微鏡だけでの不良解析は大変危険なので、絶対になさらないでください。断面観察に先立ち、実体顕微鏡で外観観察を完了させてから金属顕微鏡で観察するのが基本です。

断面観察で得られる主な情報を表1および表2に示します。

写真11は、噴流はんだ付けのフィレットのはんだを溶解して観察したもので、金属間化合物は溶けずアトランダムの方向に針状に析出しています。金属間化合物は比較的容易に生成されます。写真12は、はんだ付け部断面に生成された金属間化合物です。

 

1.4 分析機器

 

成分分析を行う上での設備の概略を説明します。

不具合部の化学分析では、そのままの状態でできる場合(電子顕微鏡、FTIR)と、溶剤に溶かして行う場合(ガスクロマト、イオンクロマトなど)があります。

溶剤を使用する場合は、溶剤の選定を誤ると正確な分析ができなくなります。一般には、ベンゼンは溶剤として優れた溶解力がありますが、人体に有害ですから、溶剤を使用する場合はドラフト内で作業するのが原則になります。作業環境の面からも室内の換気には十分配慮するよう心掛けなければなりません。

また、関連の取扱い資格が必要となります。

不具合の原因解明の場合はミスは許されませんから、事前に練習し、分析機器が正常か否かを確認しておくことは大切です。

分析する物質とそれに適した主な分析機器について表3に示します。

ガスクロマトグラフ、イオンクロマト、赤外分光光度計で得られた分析チャートを例を図1、2、3に示します。

(資料提供:㈱島津製作所)

 

 

 

 

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